第1章・4月『気になるアイツ』
「早く、早く、おいてくよ! だぁから来なくていいって言ったのにぃ」
5分前だよ、ありえない。
「…だって有実、今日はおめでたい日なんだから、ママだって楽しみにしてたのよ」
「そのママっての、やめてよ! 今日からあたしは高校生なんだからね」
まさか、その輝かしい始まりの日に、母親と洗面所の取り合いをするとは。
入学式の主賓はあたし。
お母さんじゃないっていうのに、朝からごってりお化粧なんかしてるから。
遅刻したら一生の恥!
「だいたいお母さんはねぇ、いっつもそうなんだよ」
「あらま、あのひと、すてき」
肩で息をしているのに、よそ見をする余裕はあるわけですね。
あたしの言うことなんか、聞いちゃいないし。
「ひとりだし、上級生かしら、ね。なーんて長いアシ、でしょ、ふふ」
ぜーぜーしながら、まだ言うか!
それにしても――…
「なに、あのひと! バードウォッチング? 余裕じゃん」
遅刻しそうだっていうのに、のんびりポケットに手なんかつっこんじゃって。
「だってぇ、よいお天気、ですもの、ね」
あー、もう。
受験のときにもう後悔した、校門まで続く長い上り坂。
両側にきれいに植えられた木々は未だになんの木だかもわからない。
なにしろそれどころじゃない。
受験の行き帰りは緊張して目の前しか見えなかったし。
今日は晴れの入学式だというのに遅刻寸前。
「お母さんはキョロキョロしない! で、真面目に走る!」
「早く、早く、おいてくよ! だぁから来なくていいって言ったのにぃ」
5分前だよ、ありえない。
「…だって有実、今日はおめでたい日なんだから、ママだって楽しみにしてたのよ」
「そのママっての、やめてよ! 今日からあたしは高校生なんだからね」
まさか、その輝かしい始まりの日に、母親と洗面所の取り合いをするとは。
入学式の主賓はあたし。
お母さんじゃないっていうのに、朝からごってりお化粧なんかしてるから。
遅刻したら一生の恥!
「だいたいお母さんはねぇ、いっつもそうなんだよ」
「あらま、あのひと、すてき」
肩で息をしているのに、よそ見をする余裕はあるわけですね。
あたしの言うことなんか、聞いちゃいないし。
「ひとりだし、上級生かしら、ね。なーんて長いアシ、でしょ、ふふ」
ぜーぜーしながら、まだ言うか!
それにしても――…
「なに、あのひと! バードウォッチング? 余裕じゃん」
遅刻しそうだっていうのに、のんびりポケットに手なんかつっこんじゃって。
「だってぇ、よいお天気、ですもの、ね」
あー、もう。
受験のときにもう後悔した、校門まで続く長い上り坂。
両側にきれいに植えられた木々は未だになんの木だかもわからない。
なにしろそれどころじゃない。
受験の行き帰りは緊張して目の前しか見えなかったし。
今日は晴れの入学式だというのに遅刻寸前。
「お母さんはキョロキョロしない! で、真面目に走る!」