でも彼女は特に気を悪くした様子なく、手を合わせたまま続けた。
「さっきのが“歌”なんだろ? あたしもあんな歌を使いたいんだよ」
「なんで、歌を……?」
歌を教えるのは良い。むしろこの世界の人に歌を知ってもらえるなら喜んで教えたい。
フェルクレールトで子供たちに歌を教えたあの時の興奮が思い出された。
……でも、海賊である彼女が歌を“使いたい”なんて、理由が気になってしまう。
もし歌を悪いことに使おうというなら、絶対に教えたくはない。
するとアヴェイラは私から視線を外しぎゅっと眉を寄せた。
「グレイスって鳥がいただろ? あいつのとこに」
(グレイス?)
グリスノートの肩に乗る可愛い鳥グレイスを思い浮かべながら私は頷く。
「いました、けど……」
「真似しようとしても、うまく出来なくてさ」
「マネ?」
「あんな声が、出せるようになりたいんだよ」
「なんで」
つい、もう一度訊いてしまっていた。
するとアヴェイラは焦れたようにこちらに向き直り声を荒げた。



