次の曲目を歌い始めると、目の前に紺碧の大海が広がった。アヴェイラのために作ったあの歌だ。
 帆船が二隻並んでいるのが見えてきて、甲板に皆が集まってきた。
 リディ、コードさん、フィルくん、一緒に船旅をした皆がこちらに大きく手を振ってくれて、隣の船ではアヴェイラがあの美声で気持ち良く歌い始める。
 彼女に名指しされたリディとフィルくんも顔を赤くしながら一緒に歌いだして、それを見ていた仲間たちも肩を組んで身体を揺らし荒々しい声で合唱してくれた。
 船上は再び海という大劇場の舞台となった。


 最後に歌いたかった曲がある。


 私は一度目を開けて、エルネストさんを見上げる。
 彼がそれに気づいて目を瞬いた。

  風が歌い、草木が躍る
  波が歌い、月の橋がかかる
  ここは楽園

 エルネストさんがその双眸を大きくして、それから幸せそうに微笑む。
 彼の作曲ノートにあった“楽園”という曲。ずっと歌ってみたかったのだ。