「――わ、私は、何もいいと思われるようなことはしてないです」
「オルタードの前で俺の気に入ったとこをあげてくれたじゃねぇか。あれにはぐっと来たねぇ」
「あれは! だって、ふりで仕方なく」
「歌にも理解があるしよ? 俺は、あんたしかいねぇと思ってる」
そこで再び真剣な眼差しを向けられて、ぎくりとする。
「惚れてんだよ。だから俺の嫁になってくれ」
「~~~~っ」
顔が熱い。
もう一度ちゃんと断らなければと思うのに、口はぱくぱくと動くのに、肝心の声が出て来てくれない。
「――さてと、そこまでだ」
ぽんっと後ろから肩を叩かれびっくりする。セリーンだ。
「カノン、もう戻ろう」
「え……?」
「はぁ?」
不服そうにグリスノートが声を上げる。
「待てよ、まだ返事を」
「返事なら先ほどはっきりと聞こえたが? 行こう、カノン。リディをひとりにしたままだ」
「う、うん」
セリーンに促され彼に背を向けると、大きな舌打ちが聞こえた。
「ヴォーリア大陸に着いたらまた言うからな、カノン。それまでに決めといてくれ」
「……」
「しつこい男は嫌われるぞ」
セリーンが冷たく言い残すと同時、背後で扉が閉まった。



