My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 6【最終章】


「――わ、私は、何もいいと思われるようなことはしてないです」
「オルタードの前で俺の気に入ったとこをあげてくれたじゃねぇか。あれにはぐっと来たねぇ」
「あれは! だって、ふりで仕方なく」
「歌にも理解があるしよ? 俺は、あんたしかいねぇと思ってる」

 そこで再び真剣な眼差しを向けられて、ぎくりとする。

「惚れてんだよ。だから俺の嫁になってくれ」
「~~~~っ」

 顔が熱い。
 もう一度ちゃんと断らなければと思うのに、口はぱくぱくと動くのに、肝心の声が出て来てくれない。

「――さてと、そこまでだ」

 ぽんっと後ろから肩を叩かれびっくりする。セリーンだ。

「カノン、もう戻ろう」
「え……?」
「はぁ?」

 不服そうにグリスノートが声を上げる。

「待てよ、まだ返事を」
「返事なら先ほどはっきりと聞こえたが? 行こう、カノン。リディをひとりにしたままだ」
「う、うん」

 セリーンに促され彼に背を向けると、大きな舌打ちが聞こえた。

「ヴォーリア大陸に着いたらまた言うからな、カノン。それまでに決めといてくれ」
「……」
「しつこい男は嫌われるぞ」

 セリーンが冷たく言い残すと同時、背後で扉が閉まった。