はっきり断るとグリスノートはムスっとした顔をして言った。
「誰か、待ってる男でもいんのか?」
「そ、そんなんじゃなくて、でも、家族が私の帰りを待ってて」
「家族? ならこの船で報告しに行きゃいいじぇねぇか。俺の嫁になったってよ」
グリスノートが鼻で笑いながら簡単なことのように言う。
「船で行けるような場所じゃ……」
だがそこまで言って、これ以上はまずいと気づく。
「あ? どこだよそこは」
案の定そう訊かれてしまい、私は慌てる。
「っていうか、お嫁さんになってくれるなら誰でもいいんですか!?」
口に出しながら、なんだかまた腹が立ってきた。
この人はお嫁さんを……結婚をなんだと思っているのだろう。
結婚は愛し合っているふたりがするものだ。出会って間もなく、好きかどうかもわからない相手とするものではない。……少なくとも私はそう思っている。
だが彼は「はぁ?」と首を傾げた。
「誰でもいいわけねぇだろ。俺はカノンがいいって言ってんだ」
「!?」
不覚にもドキリと胸が鳴る。



