「大事にする。だから、」
そう言って一歩こちらに近づいてきたグリスノートに私は慌てて両手を突き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんだよ」
グリスノートが機嫌悪そうに片眉を上げる。
顔がじわじわと赤くなっていくのが自分でわかる。こんなことを言われたのは勿論生まれて初めてのことだ。
(だって、今のってまるでプロポーズ……!)
確かに、彼はこれまでも私のことを嫁にしたいと言ったり仲間に姐さんと呼ばせたりはしていたけれど、どこか本気ではないと思っていた。
私は焦って続ける。
「いえ、あの、前にも言ったと思うんですが、私には帰らなきゃいけない場所があって」
「あ? 聞いてねぇぞそんなの」
「え……」
そう言われて気付く。リディには何度も言っているがグリスノートに直接伝えるのはそういえばこれが初めてだ。
「――あ、あるんです! 帰らなきゃならない場所が。だから、あなたのお嫁さんにはなれません!」



