「このレーネで、歌やセイレーンの噂って聞いたことないですか?」
瞬間、その双眸が大きく見開かれるのを見た。――だが。
「そんな噂、聞いたこともないな」
その眼を隠すかのように帽子を深くかぶり直し素っ気なく答えると彼はすぐに背を向け鉱山の聳える方へと歩いて行ってしまった。
「やはりダメだったか?」
セリーンの声がして振り向くと、彼女とラグが詰所前でこちらを見ていた。
私はふたりに駆け寄って小声で言う。
「何か知ってそうだった」
「!?」
一瞬見せたあの表情は間違いなく“動揺”だった。
知っていて、でも隠しているのだとしたら……。
私はもう一度振り返り、彼の小さくなった後ろ姿を見つめた。



