詰所の中にはマルテラさんと同じ服装をした自警団の人たちが数人いて、先ほどから少し離れた場所でその男性と何やら話し込んでいる。

「ありがとうマルテラ。ほら、あなたもありがとうは?」
「あいがとう!」

 可愛らしいお礼にマルテラさんは「どういたしまして」と言って微笑んだ。それを見て少し心が安らぐ。

「本当にありがとうございました」

 女の子を抱っこして立ち上がったお母さんは、もう一度ラグに頭を下げてから詰所を出て行った。
 
「ありがとう」

 マルテラさんが救急箱の蓋を閉じて、ラグを見上げた。

「貴方がいなかったら、もっと被害が出ているところだったわ」
「いや……」

 ラグは短くそう言って顔を伏せてしまった。
 そんな彼を見てマルテラさんが目を細める。

「随分、雰囲気が変わったのね」
「……」

 ラグは何も返さない。
 でもそれを聞いて確信する。

(彼女は、昔の……明るかった頃のラグを知ってるんだ)

 小さく胸が痛んだ気がした。