ねむれ ねむれ おやすみなさい

「やめろ!」

 髪が銀に輝きはじめて強く腕を掴まれたけれど、私はその手を優しくとって両手で握り締めた。
 青い瞳がそんな私を戸惑うように見上げる。


  悪い夢は もう見ないわ

  大丈夫 ここにいる

  ここで歌っているから

  安心して おやすみなさい


 強張っていたラグの手から徐々に力が抜けていくのがわかった。
 抗うように最後まで私を睨んでいた瞳もゆっくりと閉じていって――。


  ねむれ ねむれ おやすみなさい

  大丈夫 ここにいるわ


 そうして、彼は静かに寝息を立て始めた。
 彼の寝顔を見るのはこれが初めてではなかったけれど、歌が効いているのだろうか、なんだかとても幼く、あどけなく見えた。
 ブゥがまるでお礼を言うように私の目の前でくるりと一回転してみせた。
 そんなブゥに微笑み返して、もう一度眠る彼を見つめる。

 ――どうか、もう悪い夢を見ませんように。
 不安は消えなくても、せめて彼がよく眠れますように。

 私はラグの大きな手を握りながら、しばらくの間小さな声で歌い続けていた。