「ぶぅ~」

 ブゥが小さく鳴きながらこちらに飛んできて私の肩に止まった。その頭を指で優しく撫でながらもう一度ラグの方を見る。

(いいのかな……)

 そういえばリディの家でも彼は私とセリーンにベッドを譲ってくれたのだ。
 口は悪いけれど、こういうとき彼は本当に優しいと思う。紳士、と言うべきだろうか。
 と、そこで大きな欠伸が出てしまった。
 静かになったからか急な眠気がやってきて、しかもすぐ目の前には気持ちよさそうな大きなベッド。
 結局、私はその誘惑に勝てなかった。

「ありがとう、ラグ。ベッド使わせてもらうね」

 もう眠ってしまったのか、答えは返ってこなかった。


 久しぶりのちゃんとしたベッドに上がって、でも真ん中で寝るのは流石に気が引けて端っこの方に横になる。
 そこからラグの方を見つめ、先ほどの彼の言葉を思い出す。
 ――あの瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。

 ラグも寂しいと思ってくれているのだろうか。
 自惚れてしまって、いいのだろうか……?

 仰向けになって深呼吸をすると、そのままスゥっとベッドに吸い込まれていく感じがした。

(もし、ラグに帰るなと言われたら、私は……)

 意識が遠のいていく中で、

「勘弁してくれ」

そんな溜息交じりの呟きが聞こえたような気がしたけれど、もう夢か現実かわからなかった。