だって、今私がこの世界からいなくなってしまったら、彼の――ラグの呪いが解けないままになってしまう。
 セリーンにお礼を言えないままになってしまう。
 エルネストさんだって、私を待っている。

 “もしかしたら”という、ただの憶測に過ぎないのに。
 歌うことが、出来なかった。

 コンコンッ

 ノックの音にびくりと肩を竦める。

「俺です。フィルです。夕食を持ってきました」

 その声に少しほっとして、私はベッドから立ち上がった。
 扉を開けると、フィルくんが食事の乗ったトレーを持って立っていて私は笑顔でお礼を言う。

「ありがとう。アヴェイラは?」
「明日の打ち合わせが長引いているみたいで、代わりに俺が」
「そう」