「ですから、」

強めの口調で言い、一旦言葉を止めた男性。
その視線は哀れむようで蔑むようで、間違っても好意的なものではない。

「優華(ゆうか)はオレンジの果汁が好きだから、よく飲むのに」
「だからといってお腹を壊しては意味がないじゃないですか。柑橘系の果汁はお腹が緩くなりがちなんです。わからないなら、飲ませる前に誰かに確認をして下さい」

「わかりました、これからは気をつけます」

不満はある。文句もある。
でも娘の優華が昨夜から下痢気味なのは事実で、その原因が一華の与えたオレンジ果汁だと言われれば子育て初心者の一華には言い返すことも出来ない。

「山田先生をお呼びしますので、念のために診察をしていただきましょう」
「はあぁ」

都内の総合病院の院長だという山田先生。
50代前半の、白衣が似合ういかにも『医者』って感じの男性。
浅井家のホームドクターで、何かあればすぐに駆けつけてくれる。
でも、熱があるわけでも食欲がないわけでもないから受診の必要はないと思うけれど。
それに、

「あのぉ・・・」
「はい」

何でしょうと、鷹文の側近である守口が一華を見る。