「出産ギリギリまでここで診てくれるのよね?」
「ええ、検診は私が診させていただきます。お産は紹介状を書きますから産院か大学病院でお願いします」

1人で始める小さなクリニックは検診と女性外来と、不妊に特化した病院。
お産までやっていては乃恵の身が持たない。
徹と何度も話し合い、入院施設は持たない昼閒のみのクリニックにと決めた。

「それにしても麗子さん、随分大きくなりましたよね。このまま病気で死ぬかもって言っていたのに」
笑いながら、一華がお腹に手を当てる。

あの時、「生理は来たんだから妊娠の可能性はない」と言った麗子の言葉をそのまま信じたけれど、実際麗子は妊娠していた。
体調不良はつわりで、癌でも悪い病気でもなかった。

「まさか妊娠しても出血があるなんて知らなかったんだもの」

「それでも、おかしいと思えばまず調べませんか?」

「それは・・・」
いつもはっきりものを言う麗子も、この話題ではおとなしくなってしまう。

「まあいいじゃないですか。着床出血なんて知らなくて当然だし、生理が来れば妊娠はしていないって思うわ。一華さんだって、妊娠に気づいたのはかなり遅かったはずでしょ?」
「それはそうだけれど」

優華が生まれた大学病院に勤めていた乃恵は、一華の妊娠の経過だって知っている。
一華だって4ヶ月になるまで妊娠には気づかなかったはず。

「もう、勘弁してちょうだい。この件では孝太郎に散々叱られたんだから」

フフフ。
乃恵も一華も笑い出してしまった。