わがままな女神たち

「着いたぞ」
「え?」

マンションに帰るとばかり思っていた乃恵は、見覚えのない景色に戸惑っていた。

「ここは?」

「中で説明するよ」
車を降りていく徹。

「ま、待って」
乃恵も後を追った。


方角としては自宅からそう遠くないと思う。
暗くてよくわからなかったけれど、途中まではマンションに向かっていた。
眠さとお酒でボーッとしてしまって、はっきりとした場所はわからないけれど、ここは都心の一角にあるビル。
10階建てくらいだろうか、暗くて最上部までは見渡せない。

「ねえ、どこに行くの?」

駆け寄って、徹の腕をつかんだ。

「いいから、ついておいで」

後ろからつかんでいた乃恵の手をしっかりと繋ぎ直し、徹は歩き出す。

ギュッとつながれた徹の掌は、お酒の入った乃恵よりも温かい。
思えば付き合った時期がないまま結婚してしまった乃恵と徹は手をつないで出かけたことさえなかった。

これからは2人で出かけられると思っていたのに・・・

泣かないでいようと思っていた乃恵の瞳から、涙がにじんだ。

「どうした?」
心配そうに振り返った徹の顔。

「何でも、ない」

「嘘つけ。乃恵の何でもないは、信用できない」

フン。
わかったようなことを言わないで欲しい。
ここ最近は、私に声さえかけなかったくせに。

「ほら、行くぞ」

ちょうどエレベーターがきたところで、乃恵は腕を引かれた。