わがままな女神たち

「乃恵ちゃん、もうやめておいた方がいいわ」

みんなが唖然とする中グラスいっぱいのワインを一気に飲み干した乃恵に、麗子が水を差し出す。

「いいんです。私だって、たまには飲みたいときも」

あれ?
なぜだろう、目の前の景色が揺れ出した。

おかしい。
たった1杯のワインで酔うはずなんてない。

動揺を誤魔化すように、もう1度グラスに手を伸ばそうとしたその時、


「何をやってるんだ?」
ほどよい低音の、耳障りのいい声。

え?

現れたのは、ここにいるはずのない人。
仕事が忙しくて、ここ最近は日付が変わってからしか帰ってくることのない旦那様。

「何で?どうして、徹がいるの?」

状況が理解できずポカンと見つめてしまった乃恵に、

「俺が呼んだんだ。『乃恵ちゃんが酔っ払ってるぞ』って」

さっき撮った乃恵がワイングラスを持つ写真を見せて、孝太郎が答えた。
確かにこの写真だけ見れば、乃恵が楽しそうにワインを飲んでいるように見える。
でも、だからって、徹がどうして・・・

「何で酒なんか飲むんだよっ」
珍しく叱られた。

「まあまあ徹さん」
鷹文が驚いた顔で仲裁に入るけれど、
「乃恵、酒はよくないって言われているはずだろう」
徹の怒りは収まらないらしい。

「いいじゃない、たまに飲んだって」
つい言い返してしまった。

乃恵にだってお酒に逃げたいときはある。
今は体より心が苦しくて、お酒を飲んで忘れたかった。

「お前・・・」
凄い目力で睨み付ける徹。

「落ち着け徹。乃恵ちゃんの言い分も聞いてやれ」

自分が徹を呼んでおいて怒り心頭の徹に焦ったのか、孝太郎も慌てている。
乃恵だって、ここまで機嫌の悪い徹を見るのは初めてかも知れない。

「もういい、帰ってからゆっくり聞く」
そう言うと、徹が乃恵の手をつかんだ。

その瞬間、

あっ。
あの香水の香りがした。

徹は今まであの人といたんだ。
せっかく2人でいたのに呼び出されて、きっとそれで怒っているんだ。

「行くぞ」
グイッと腕を引かれる。

「ィヤ」

「え?」

「イヤなの、離してっ」
乃恵は徹を突いた。