「へえ、乃恵ちゃんは産科のお医者さんなんだ」

お酒も入り、呼び方も乃恵さんから乃恵ちゃんに変わった鷹文。

「優華の出産でお世話になった大学病院で、勤務しているんですってよ」
「ふーん」
「診察室でいきなり会って、びっくりしちゃった」
「そうなんだ」

楽しそうに話して聞かせる一華を見て、『週に1度の非常勤なんです』とか、『まだ研修医です』とか言い訳めいたことが言えなかった。

楽しそうだな。
幸せそうだな。
羨ましいな。
ただ、そんな思いだけ。

「乃恵ちゃん、大丈夫?」
黙り込んでしまった乃恵に、麗子が声をかけた。

「大丈夫です。今日はいっぱい歩いたから、少し疲れたのかな」
愛想笑いをしながら、近くのグラスを口に運ぶ。

「「ああ、それっ」」

孝太郎と、麗子の声が重なった。

え?

「それ、ワインよ」

ええ、
ゴクン。

飲んじゃった。

「もう、孝太郎がそんなところに置くから」
麗子さんが怒り出し、
「だから、広いテーブルに変わろうって言ったじゃないか」
孝太郎も不機嫌な顔。

「あの、大丈夫です。別にお酒が飲めないわけではないですから」

体のために控えてはいるけれど、飲めないわけではない。
時々1人で缶チューハイを空けるときもある。

「ごめんね乃恵ちゃん」

「麗子さん、本当に大丈夫ですから。ほら、結構いける口なんです」

近くにあったグラスに孝太郎さんの前に置かれた赤ワインを注ぎ、ゴクゴクと流し込んだ。

あぁあー、美味しい。
ワインってこんなに美味しかったっけ。