「そうはさせないよ」

突然聞こえてきた耳慣れた声に、一華も乃恵も麗子も振り返った。

「それだけ元気があるってことはいいことだと思うけれどね」

誰の許しも請うことなくテーブルへと近づいてくる男性。
それは3人共によく知る人物。

ヤバッ。
麗子が心の中で呟いた。

「随分派手にやってるようじゃないか」
テーブルの上に広げられた料理やグラスに目をやりながら、呆れた顔。

「「「・・・」」」
その圧のある言葉に、誰も返事ができない。

目の前にいきなり現れたのは、完璧なオーダースーツをサラッと着こなし整った顔で眼光鋭く周りを威圧する鈴森商事の御曹司。

「孝太郎、どうしてここへ?」
最初に反応したのは麗子だった。

今は出張で大阪のはず。
まだ帰ってくる予定にはなっていない。

「小熊から麗子の体調がよくないって聞かされて、無理して帰ってきたんだよ」
「そんな・・・」

麗子が何よりも避けたいのは、自分が孝太郎の足を引っ張ってしまうこと。
彼の力になることはあっても負担にはなりたくない。そんなことになるくらいなら、自分は身を退く。
ずっと、そう思ってきた。

「私は大丈夫なのに。明日だって、明後日だって、大切な会議があったはずでしょ?」
孝太郎のスケジュールを把握している麗子の口調が少し強くなった。

今は孝太郎にとっての正念場。
うまく社長就任を乗り切らないとこの先仕事がやりにくくなるだろうし、下手をすれば鈴森商事の経営自体にも影響を及ぼしかねない。
自分のために時間を裂いて欲しくないと、麗子は考えていた。