「ったく」
守口は苛立っていた。

今日の午後から一華と連絡が取れない。
大学病院に癌検診に行くと聞いていたから数時間で戻るものと思っていたのに、夕方になっても帰宅しないし、電話も繋がらない。

「本当に連絡はあったんですね」
優華お嬢さんのシッターを任された雪に何度も確認する。

「ええ、病院でお友達に会ったとかで、夕食を済ませて帰りますと連絡がありました」
「私は聞いていませんが?」

「それは・・・」

普段から厳しいことばかり言っている守口は、一華に好かれていない。
うっとうしくて煙たい存在のはずだと自負もある。
着信拒否も当然と言えば当然かも知れない。

「わかりました。何か連絡があれば知らせてください」
「はい」

守口の家は代々浅井家当主の側近として仕えてきた。
一人息子の鷹文が二十歳で事故に遭い一旦浅井の家を離れることになった時にはこの先どうなるかと心配したが、2年前に戻ってきて今は後継者としてのスキルを積みつつある。
後数年して本社の取締役に名前を連ねるときには、守口が秘書として鷹文に帯同する予定だ。
それまでは浅井の本宅で、一華の教育係を務めるつもりなのだが・・・