一華と鷹文は6年もの間同期として同じ職場で働いていた。
誰よりもお互いを知り、遠慮もなく気心の知れた仲だった。
そんな2人でも、結婚し生活が変わればすれ違いが生まれてしまうのか。
麗子は複雑な思いで一華を見つめた。

「きっと無い物ねだりなんですよね」
それまで黙っていた乃恵の一言。

「「え?」」

「私、心臓が弱いんです。そのお陰で行動制限もあるし、赤ちゃんも諦めました。産科医なんてやっていますけれど子供はもてませんし、家族のいない徹に家族を作ってあげることもできないんです。それに、お互い両親のいない私達には愚痴を言える親もいなくて、お2人を見ていると本当にうらやましいと思います。でも、お2人にもそれぞれ悩みがあるわけでしょ?」

「ええ、まあ」
「確かにそうね」

一番年下のくせに、乃恵の言うことが一番核心を突いている。
一華からすれば、医者として働き自分らしい暮らしを貫く乃恵がうらやましいと思えたけれど、別の立場からすれば違って見えるものらしい。

「ごめんね乃恵ちゃん、愚痴ったりして」
「いいんです」

「ねえ、せっかくだからこのまま3人で失踪してみる?」
麗子の爆弾発言に、

「いいわよ」
「いいですね」
一華も乃恵も賛成。

それは、不満も不安もストレスも目一杯に抱え込んだ3人のちょっとした息抜きだった。