わがままな女神たち

「さっきは、ごめんなさい」

注文した紅茶が運ばれていたタイミングで一華が口にした。
診察室での大人げない態度を思い出したのか、少しだけ声が震えている。

初対面の人に向かって1人で勝手に怒ってしまったのは一華。
そうなるきっかけはあったにしても、もう少し冷静な態度を取るべきだった。

「いいんです、私の言い方ももったいぶっていました。気分を悪くさせたのなら、私の方こそすみません」

一気に言って頭を下げる乃恵を見て、一華は驚いた。

「乃恵ちゃん、いい子ね」

この短い時間で、一華の謝りたい気持ちも微妙な立場も理解して自分が頭を下げることでことを納めようとする乃恵。
年下のくせに大人だなあと、一華は思った。

「やめてください。私はそんなに立派な人間ではありません」

ただ必死に生きているだけ。
医者なんて究極の縦社会の中で、もがき続けて身につけた処世術。
いつも周りから『先生』と呼ばれ、人に命令することにも準備や片付けをしてもらうことにも慣れてしまった。
いつの間にかおごりを身につけてしまい、かわいくない女になってしまったことだろう。
だからこそ、出来るだけ謙虚に生きたいと心がけている。

「徹さんが大事に隠しておきたいはずね」

「・・・」
何も言い返せなかった。

乃恵から見れば、一華は全てに恵まれた幸せを絵に描いたような人。
立派なご両親がいて、お金もあって、きっと何の不自由もなく生きてきたはず。
乃恵とは住む世界が違う気がする。
こんな風にみんなに愛され大切にされて育ったなら、乃恵にも違う人生が待っていたのかもしれない。
そんなことを考えながら、運ばれてきたコーヒーを口にした。