「すみません、お待たせしました」

息を切らしながら、駆けてきた乃恵。
少し茶色い髪は短めのボブで、顔も手も足も見えている部分は透き通るように真っ白。
この色の薄さが子供の頃からのコンプレックスだった。
ただでさえ体が弱いのに、細くて白い女の子はどうしても病的に見えてしまうから。


「あの、何か付いてますか?」

無遠慮にジロジロと見てしまった一華に、乃恵が不思議そうな顔をした。

「ああ、ごめんなさい。素敵な人だなって、見とれちゃった」

「はあ」
初対面の年上の女性にあからさまに褒められても答えに困る。

そもそも、素敵なんて言葉は一華の方にこそふさわしいと乃恵は思う。
明るいブラウンの髪は肩の長さで切りそろえられ、大きめのウエーブが存在感を出しているし、服だってシンプルなスカートにカットソー、ロングカーディガンを合わせただけなのに、素材の良さが生きていてとっても素敵。
いいところの若奥様感が半端ない。
なにしろこの人は鈴森商事のお嬢様で、今や日本を代表する財閥浅井コンツェルンの若奥様。
きっと幸せに生きてきた人なんだろう。


「急にお誘いしてすみません」
年下である乃恵の方から口火を切ってみた。

「いいえ、私こそ1度会いたいと思っていたの。まさか娘を出産した病院のお医者様だったとは知らなくて」

「医者と言ってもまだ駆け出しです。普段は別の病院で勤務していて、週に1度ここへ来るんです」
「へえー」

乃恵の研修期間はほぼ終わりかけている。
駆け出しの研修医ですなんて言っていられるのもあとわずか。
来年の春には一人前の医師となる予定。
そろそろ、先々のことを考えないといけない時期なんだけれど・・・