「すみません、実は私」
一華が怒ってしまったことに気づいた女医が、慌てて説明しようとするが、

「もう、結構です。申し訳ありませんがドクターを変更してください」
女医は無視して、近くの看護師に声をかけた。

「しかし・・・」
いきなり話を振られた看護師は困り顔。

「落ち着いてください。ドクターの変更をご希望なら、部長先生が病棟にいますので呼びましょう。ただ、一言だけ言わせてください」
この期に及んで言い訳をしようとする女医。

「結構です、聞きたくありませんから」
感情的になった分、一華の声が大きくなった。

いつもの自分ならここまで怒ったりはしない。
きっと、人から注目される生活と初めて育児と、環境の変化からくる疲れが溜っていたんだと思う。

「一華さんって、随分短気ですね」

「はあ?」
一華は立ち上がり女医を睨み付けた。

何なのこの人。
えっと、ネームプレートは『医師 長谷川乃恵(はせがわのえ)』。
初めて会ったのに失礼な人。

「本当にあの孝太郎さんの妹さんですか?」
「え?」

今なんて言った?
お兄ちゃんの知り合い?ってことは・・・

「初めまして。私、香山徹の家内です」
「えええぇ」

そう言えば、徹さんの奥さんはお医者さんだって聞いた記憶が・・・
でも、この人?
随分若そうだけれど。