わがままな女神たち

「浅井一華さん、3番診察室にお入りください」
聞こえてきた呼び出しの声。

一華は診察室へ向かった。

ここは都内の大学病院。
優華の出産でもお世話になった通い慣れた病院だけれど、産婦人科って言うだけでつい身構えてしまう。


トントン。
「失礼します」

「浅井さんですね、どうぞ」

白衣を着て待っていたのは若い女医だった。
出産の受診はいつも部長先生の診察だったから、初めて見る顔。

「浅井一華さん、今日は癌検診ですね?」
「はい。昨年こちらで出産したときに1年に1度は受けるようにと言われたものでやって来ました」

「わかりました」

カチカチとパソコンを叩きながら、カルテを確認している女医。
すると、突然手が止った。

「浅井さんって・・・」
そこまで言って一華を振り返る。

はあぁ。
一華は溜息をついた。

まただわ。
きっとこの後に、『浅井コンツェルンの奥様ですか?』と続く。
鷹文と結婚して以来何度も味わってきた状況。
はっきり言って、嫌な気分。

「浅井コンツェルンの奥様ですよね?」

ほら来た。

「ええ」
ニコリともせずに一華は答える。

「と言うことは、鈴森商事の」
「あの、」
一華は、思わず言葉を遮った。

浅井の名前を聞いて『浅井コンツェルンの奥様なんて凄いですね』と言われるのはまだ許せる。
本音を言えばイヤだけれど、自分が逆の立場なら言うかもしれないと思えるから。
でも、浅井と鈴森商事の騒動まで持ち出して話を膨らまそうとする野次馬は許せないし、相手をしたくない。