「うーん。告白ってどんな風にしたらいいんだろう?」
私はその夜、一人部屋で悩んでいた。
あの後、瑠璃ちゃんには応援の言葉しかもらっていない。
どうしたらいいんだろう…
告白、やっぱりやめようかな…
いや、ダメダメ!
告白は絶対にしないと!
私の思い、知ってもらわないと!
「ちょっとあさひ?入ってもいい?」
「あ、お姉ちゃん!いいよ!」
ガチャ
制服姿で入ってきたのは私のお姉ちゃん。
ひよりって言うんだ。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「あ、あのさ、そこのバッグ取ってもらってもいい?」
「おっけー!」
私は机の横にあったバッグを取った。
「はい!」
「あさひありがと。」
あれ?
バッグの外ポケットから小さく折りたたまれた紙がはらりと落ちた。
「これって…?」
「あ、あ、あ…!」
お姉ちゃんは急に慌てだした。
「お姉ちゃんどうしたの?大丈夫?」
「え?まぁね。あは、あははは… 」
ん?
様子がおかしいような…
気のせい?
「お姉ちゃん?」
お姉ちゃんは、目を泳がせながらそわそわしている。
絶対大丈夫じゃない!
「お願い…この紙何か教えてくれない?」
私は、お姉ちゃんの目をじっと見つめながら言った。
「…分かった。じゃあ誰にも言わないって約束してくれる?お母さんにも言っちゃダメだよ?」
「え、あぁうん…」
そんなに大切なことなのかな?
でもお姉ちゃんのいうこと守らなきゃ!
「絶対に言わないでね?実はこれ、ラブレターなの…」
「ラ、ラブレター!?」
「しーーっ!」
「ごめん…」
「一昨日もらったの。」
「同級生の子?」
「うん。青山涼介っていう人。‪」
「へぇ〜すごいね!それで、その人は優しいの?」
「もちろん!優しいし、面白いし…」
「イケメン?」
「…うん!というか、なんでイケメンか聞いてくるのよ?」
「だってお姉ちゃんイケメン好きでしょ?」
「…っもう。そうだけど…」
「それでお姉ちゃん、告白の返事はしたの?」
「…まだ。」
「そうなんだ。」
「明日しようと思ってて…でも、告白初めてなんだよね。どうしたら上手く言えるか考え中なの。どうしたら喜んでもらえるか…」
「喜んでもらえるか、かぁ〜。」
「どうしたのあさひ?」
「…実はね、私もある人に告白しようって思ってるんだ。」
「えぇーーーー!?」
お姉ちゃん、やっぱり驚いてる。
「そうだったの!?」
「うん。」
やっぱり恥ずかしいな〜。
「そっかー。あさひにも告白したい相手ができたんだね。」
「…」
「ちなみに誰なの?」
「…沢田洸太(こうた)」
「知らない子だ!」
「そりゃあ当たり前だよ。同じ学校じゃないし。」
お姉ちゃんは中2。
そもそも学校が違うし。
「その人はどうなの?」
「優しいよ?面白いし、顔は可愛い&イケメンかな〜。」
「可愛い&イケメン?」
「そうだよ。だからちょうど良かった!」
「何が?」
「告白の仕方をお姉ちゃんに相談できるから!」
「私、告白初めてだから分からないよ。」
「えぇー。」
「えぇーって。」
それじゃあ、私とお姉ちゃんは同じだね。
どちらも告白初だから。
えぇ〜!
本当にどうしよう!
このままじゃ告白できないよ…
あ、でも待って?
さっきお姉ちゃんが言ってた。
どうしたら喜んでもらえるか、って。
そっか!
沢田に喜んでもらえるような告白の仕方が一番だね!
でも、告白の仕方って沢山ある。
直接とか、手紙とか、電話とか、メールとか…
最近だとメールで告白する人が多いらしいけど。
メールはどうかな?
「ねぇ、お姉ちゃん。相手が喜ぶような告白をしたらどうかな?」
「相手が喜ぶような告白でしょ?さっき私が言ったやつ。」
「うん!そうだよ。それで、メールはどう思う?」
「メ、メール?」
「うん。最近そういう人多いんだって。そしたらその人も喜ぶんじゃない?」
「何言ってるの?メールで相手が喜ぶと思う?」
「え?なんで?」
「はぁー。あさひ、全然分かってないね。」
「え、喜ばないかな?」
「うん。だって、メールって相手の本当の気持ち、伝わらないでしょ?」
「それ、どういうこと?」
「つまりね、メールは軽い気持ちだけで人に打てるってこと。それに比べて手紙は、自分自身で書くでしょ?」
「当たり前じゃん。」
「うん。じゃあ、メールは機械が打つよね?手紙だと、人によって書き方が変わってくる。丸っこい字を書く人、カクカクの字を書く人、筆圧が濃い人とか… 」
「うん。」
「もし、本気で相手のことが好きなら、きちんと書こうとするじゃない?そしたら書き方はどうなると考えられる?」
「うーん。なんか道徳の授業みたい。」
「うふふ。まぁいいじゃん。それでどう思う?」
「えーっと、筆圧が濃くなるんじゃない?」
「だよね!弱々しい字を書く人はいないよね。そういう人は、多分自分に自信がない人なのよ。」
「なるほど。」
「それに比べてメールは?」
「筆圧を濃くしたりとかできない。」
「そう。できないよね?だから、手紙の方が相手に思いが伝わりやすいんだよ。」
「お姉ちゃんすごい…」
「全然だよ。でもさー、今思ったけど、相手が喜ぶ告白って聞かないと分からないよね!」
「確かに…」
「そしたら、喜ぶ告白じゃなくても、相手に自分がどれだけ好きか伝わりやすい告白が良いと思わない?」
「うん!良いと思う!」
「だったら、メールはやめた方が良いよね?」
「うん!そしたら、直接か、手紙か、電話か…」
どうなんだろう?
相手に伝わりやすい告白って。
直接は恥ずかしいな。
そしたら、電話?
で、でも、電話も恥ずかしい!
上ずってる声が聞こえちゃうよ〜。
だったら…
手紙?
お姉ちゃんもラブレターもらったから、同じように手紙で返せば良いじゃん!
私も手紙にしようかな?
「お姉ちゃん。」
「ん?」
「私、手紙にする!」
「手紙にするの?」
「うん!お姉ちゃんも手紙で同じように返せば良いと思うんだけどな〜。」
「じゃあそうしようかな。」
「そしたら同じだね。」
「だね〜。私、今書いてみるね!」
「分かった!」
「あっ、そういえば、なんでバッグのポケットに入れといたの?落ちやすいじゃん!」
「あー、それはね、ちょうど私が家に帰ってラブレターを読んでたら、お母さんが部屋に入ってきたの。だから、隠す場所がポケットしかなくて…あのときはびっくりした!」
「そうだったんだ〜。お姉ちゃんらしいよ。」
「ふふっ!」
それからしばらく一緒に笑った。
そのときにちらりと見えたラブレターには、筆圧の濃い字で、ひよりへ、と書いてあった。