「お姉ちゃ〜ん!!」
バーン!と部屋の扉を開ける。
「え、あさひ?」
お姉ちゃんは、勉強中だったみたいで、シャーペンを握ったままだった。
「勉強中ごめんね!私、人生終わっちゃった〜!」
「な、何言ってるの?」
私は、一旦心を落ち着かせてから言った。
「だって…さ、沢田に振られたんだもん!」
「そ、それ本当!?」
そうくるよね…
お姉ちゃんは、もともと大きい目を更に大きくして言った。
「そうなの。私、手紙について文句言われたの。」
「ちょっとそれはひどいよ!手紙、一生懸命書いたのにね… 」
ほんとだよ…
沢田、どういうつもりなの?
でもね…
「私、手紙をちゃんと返してもらったから!」
そう。
私、あのときに手紙を返してもらったんだから。
「えっ、ほんとに?見せて!」
私は、くしゃくしゃになった手紙を渡した。
「…え、何で?何でこんなにくしゃくしゃなの?」
「分からないの。沢田が私の書いた手紙を見たときからくしゃくしゃになってたんだって…」
「うそ…ちょっと、手紙の内容見てもいい?」
「うん。」
お姉ちゃんは、真剣な目で手紙を追っていった。
────────────────────
沢田くんへ

いつも沢田くんには感謝しています。
毎朝、私に声をかけてくれたり、優しくしてくれたからです。
そんな沢田くんのことが好きです。
もし良かったら、私と付き合ってください!
お返事待ってます!

あさひより
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「え…」
お姉ちゃんは、手紙を読んだ後、私の方を向いた。
「…どう、だった?」
私はおそるおそる聞いた。
「…私が少しアドバイスをして手伝ったときと、手紙の内容が違う…」
───え?───
「それってどういうこと?」
お姉ちゃんは、チラッと手紙に目を落としてから言った。
「私ね、あさひの書いた手紙を手伝ったとき、もっと手紙の内容がきちんとしていて、もっと文章が長かった気がするの。というか、そうだったんだけど…」
それってもしかして…
「ねぇ、お姉ちゃん。私、余計なことしたかも。」
「え?」
「私、お姉ちゃんに最終確認として、手紙を読んでもらったでしょ?」
「うん…」
「そのあと、実は…」
本当に、本当に、言っちゃっていいのかな…
でも、このままにしてちゃダメなんだよね。
お姉ちゃんにきちんと言おう。
「あのね、実は…」
お姉ちゃんは、急に顔色をサッと変えて、真剣な顔になった。
ゴクリ
「あ、あの…実は私、お姉ちゃんに手紙を書くのを手伝ってもらった日の夜中、急に手紙が心配になっちゃって…手紙の内容を書き換えちゃったんだ。」
「え…?」
「お姉ちゃん、本当にごめんなさい!せっかく手伝ってくれたのに、お姉ちゃんの手伝ってもらった分を台無しにしちゃって…」
「いいの。それは終わったことだしね。でも、何で書き直したの?」
「それが…覚えてないんだ。」
「覚えてないの?」
「うん。」
お姉ちゃんは、しばらく考え込んだ後、あっ!っと言った。
「何?どうしたの?」
「私、分かった!あさひは、寝ぼけてたんだよ!」
「…寝ぼけてた?」
「うん!だって、何で書き直したのかは覚えてないんだよね?」
「そうなの。」
「だから、寝ぼけてたんだよ。つまりね、あさひは手紙のことを心配しちゃって急に起きたのよ。それで、なんだか分からないけど、手紙の内容を変えちゃったって訳。」
「…へ?」
「とにかく!あさひは寝ぼけてたってこと。」
私が寝ぼけてたって?
だから私、その日の夜中のことを覚えてないんだ。
お姉ちゃん、すごい…
何でも分かってる。
「それにしても…」
お姉ちゃんは、ふふっ!っと笑ってから言った。
「寝ぼけていたのに、そのときの記憶が少しでもあるんでしょ?それってすごいことじゃない?」
「そうなのかなぁ?」
「うん!しかも、寝ぼけていたら、きちんとした手紙にならないでしょ?なのに…ほら見て?きちんとした文章になってるじゃない。」
そう言って、お姉ちゃんは私の手紙を指さした。
そこには、私が寝ぼけながら書き直した手紙が。
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沢田くんへ

いつも沢田くんには感謝しています。
毎朝、私に声をかけてくれたり、優しくしてくれたからです。
そんな沢田くんのことが好きです。
もし良かったら、私と付き合ってください!
お返事待ってます!

あさひより
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「本当は、寝ぼけていなかったのかも…」
私は、自分で書いた手紙を見ながら言った。
「じゃあ、そのときのことを忘れているだけってこと?」
「うん…それしか考えられないよ。
私、寝ぼけていたら、手紙なんて書ける訳がないもの。」
「確かに。じゃあ、手紙がくしゃくしゃになっていたのはなぜ?」
「多分、それは寝ぼけていたから。」
「え?寝ぼけていたの?ただ忘れていただけだったの?どっちなの〜!」
その後、2人でしばらく笑った。
もう、初恋のことは笑って忘れよう。
ただそれだけを、過去の自分は思ったのだろう。