このビルの窓は、とても簡素な造りになっていて、ほとんど嵌め殺しの状態だ。此処からなら、容易に外へと旅立てる。

そんなことを考えていた一人の男が、不意に屋上に出てみようと、まさしく急に思い付いたのは、別にそこからの景色を見たいからではなく、独りになりたかったからだった。

 オフィス街の中に建てられた、この高いビルの屋上から望める景色は、あまり誉められたものではない。

文明の発展、という点に於いては、確かに素晴らしいかもしれないが、それは逆に自然を破壊することとイコールで結ばれているからだ。

毟ろ見るならば、空だ。

空には真っ白な雲が、形を崩すことなく、そよ風に流されながらスライドしていく。

別に見たいわけでもなかったその景色を見ながら、先程に自動販売機で購入したブラックコーヒーを啜った。


「何をしてるの?」

「……!!」

 不意に真後ろから掛かった声に、男は驚愕した。何故、此処に人が居るのか、と。

此処は、本来は立入禁止区域の筈だからだ。故に、男はこれまでになく驚いたのだ。

 呼び掛けられた声は、とても綺麗な、淀みの無い声だった。

振り向けば、学校の制服を身に纏った、艶やかな黒髪の少女が立っていた。


「答えて。何をしてるの?」