城へ戻ると大きな門の前でセヴィオが待っていた。

「あ、セヴィオ!」

「・・よう」


相変わらず不機嫌そうにセヴィオは頷いた。

フォルノスの後ろにセンジュが乗っていたからだ。


「話は聞いた。俺は今からスラムへ向かう」

「あそこに!?」

「あそこは罪人が逃げるにはうってつけの場所だからな。俺達の手で新しくしてるとは言え、まだまだ廃墟も多い」

「あ、そっか・・」


_確かにあそこならずっと隠れていられるかも・・。


「ならば、俺が行こう」

「え?フォルノスが?」


センジュを下ろすとセヴィオに告げる。

「城でセンジュを護れ」

「は?駄目だ。これはあの方の命令でもある。俺が行かなきゃ意味がないんだ」


_パパの命令って!?


「その傷で、もしラディエルに遭ったらお前は勝てるのか?」

「当たり前だろ!こんなかすり傷!」

「・・・自分の体の状況もわからんのか。お前は」

「うるせえ!俺の仕事だ!やめろ!」


セヴィオはフォルノスに食って掛かる様に歯ぎしりしている。

「セヴィオ!血が!」


服の袖から血が滴った。フォルノスに貫かれた傷だ。


「俺もムキになって悪かった。お前ごときにな」

「あ!?んだと!?」


今にも飛び掛かりそうなセヴィオをセンジュは必死に止めた。


「止めてセヴィオ!こんな事してる場合じゃ」

「そうだ。時間がない。お前はセンジュを部屋へ送れ。いいな」

「なんでだよ!」

「悪かった、と言ったはずだ。罪滅ぼしだ」

「・・は?」



バサッ
と黒天馬の羽が羽ばたいた。

フォルノスは空へ飛んだ。


「センジュ、お前がべリオルロス様に伝えろ。フォルノスが自ら向かったとな」

「え・・フォルノス!?」


言い残し、フォルノスは城下街へと向かって行った。


「くっそ・・あいつ」


傷の痛みでよろめいたセヴィオをセンジュは抱きとめた。


「フォルノス、本当に悪いと思ってるんじゃない?あんなに頑なに」

「知らねえよ・・。信じねえあいつの言葉は」

「セヴィオ・・」

「使い物にならないと思ったんだ。どうせ・・」

「・・・」

「あの方はチャンスをくれたんだ。センジュを護れなかった俺に・・命を張らせてくれる命令をくれたのに」


その言葉を聞き、センジュはセヴィオの頬を抓った。


「な、なにふんら!」

「駄目って言ったでしょ!?」

「・・・センジュ」


泣きそうなのを必死に堪え、センジュは言った。


「そうやって命を簡単に張っちゃ駄目。もっと自分を大事にしてって言ったでしょ!」

「・・・だけど、それが俺達なんだよ。もう良い加減わかれよ魔族の考え方!」

「でも駄目!セヴィオはひとつも悪くないよ!悪いのは・・ウリエルなんだから!酷い目に遭わせたのはあの人なんだから!」


_私を攫う為にセヴィオを傷つけたなら、あの人は良い人なんかじゃない!!私の叔父さんだとしても・・!


センジュはセヴィオの手を握った。

腕から流れたセヴィオの血がセンジュの手に伝う。


「私だって、魔族だよ。みんなと同じ魔族!」

「センジュ・・」

「同じ血が流れてるのなら、力になりたい!」


我慢していた涙の一粒が頬を伝った。


_泣かないって決めたのに・・・ううん、違う。泣いたって良い。次から強くなればいいんだから!


泣きながら見つめていると、セヴィオはくしゃりと笑った。

「ブス」

「え!?酷いんだけど!!」

「でも・・可愛いわ。何故か」


にっかりと笑うと、セヴィオはきゅっと抱きしめてくれた。

センジュの心は安らかになった。ようやく辛い思いから解放された感じだ。

「ありがと・・な」

「・・うん・・」

「毎度、助けられてるな俺」

「私もだよ」