明日、雪うさぎが泣いたら



《雪兎の君》


とことこと歩いてくる雪狐の二又の尾が、こちらへ近づく度にふさふさと揺れる。
癒しの光景に、一気に張りつめていた緊張を緩めてくれた。


《どうあっても、貴女は険しい道を行こうとするのですね。陰陽師殿の台詞ではないですが、もっと楽に易しい道を進むこともできるでしょうに。それも、姫の足を使わずともですよ》


今までずっとそうだった。
甘やかされて、時に叱られたとしても、側で笑ってまたすぐに手を繋いでもらえた。
だから、私の足は脆いのだ。
ちょっとした砂利道で躓くくせに、自分の足で歩いてみたいと駄々を捏ねていた。


「……そうね。でも、私思うの。誰かが用意してくれた幸せは掴みやすいけれど、見失ってしまうのも早いんじゃないかしら。だって、その形を決めたのは自分ではないから」


私という存在を、皆で作り大切にしてくれた。
まるで、雪うさぎみたい――そういうと、あまりに可愛いすぎるけれど。
でも、これからは自分で掻き集めて作り上げてみたいのだ。


《雪兎の君。今の貴女も、けして不完全な存在ではありません。一部の記憶が欠けていたとしても、貴女という存在はここにちゃんと在るのです。どうか、それを忘れないで》


あの子に会えば記憶が戻り、空虚に感じる部分を埋められるとどこかで思っていた。
でも、そうじゃない。
仮に記憶が戻ったとしても、何を幸せだと判断するのは私自身なのだから。
この世界で過ごしてきた私も、けして偽物ではないの。


「うん。ありがとう、雪狐」


誰かに決められることはできない。
私という存在は、私がみつけてあげなくちゃ。