明日、雪うさぎが泣いたら



これまでのことを思えば、到底信じられないのも無理はない。
それを隠すことなく、恭一郎様の確認は続く。


「あれほど夢の男を想っていたお前が、本当に約束できるのか? その機会を得て、真実を知ってなお、私とこの世界に留まってくれると」


疑念の目に、どうしても心が揺れる。
向こうの世界にも、今もかつての家族や友人がいるのではないか。
そうだとしたら、今も私の帰りを待って探してくれているのではないか。
そう思うと、やはり胸が痛い。


「叶うなら、最後にお別れを言えたら……とは思ってしまいます。あの子には会えなくても、もしもそこが一度は過ごした世界だったのなら」


扉が開くことがあるなら、私自身が通れずとも、何か放り投げることは可能だろうか。
本当はあの髪留めがあればいいのだけれど、もうここにはないから――何か、私を知っている人が見た時に、今も元気にしていると伝わるようなものを。

それが無理なら、せめてもう一度雪うさぎを作ろう。
最後に私が倒れていた、裏庭のどんぐりの木の下で。
溶ける前に扉が開くことがあるなら、誰かが見つけてくれる可能性を信じて。


「……少し、考えさせてくれ」


そう言った恭一郎様は、言葉とは逆にもう答えを出しているようにも見える。
頭を下げた先で彼が背中を向けたのが目に入ったけれど、もう振り返ってはくれなかった。