明日、雪うさぎが泣いたら



だけど――。


「自分のことは知りたい。私はどこに行って、ここに……帰ってきたのか。その扉はどこで開いて、どこへ通じているのか。私が見たものを思い出したいんです」


もしも、私はここに「帰ってきた」のではなく、向こうの世界から「来たまま帰れない」でいるのだとしたら。
そこは、どんなところだったのだろう。
あの子の方がこちらの世界の住人だったのなら、今どこで暮らしているのだろう。
案外近くにいるのか、それとも、かつて私がいたかもしれない世界に反対に飛ばされてしまったのかもしれない。


「あるに決まっている。記憶を全て取り戻せたとして、次はどうする? 一度は、いや、過去に何度も開いた扉だ。永遠に閉じたままとは限らない。それを狙って別の世界に行ってしまうのではないだろうな。お前は、ここを窮屈に感じているから」

《確かに、私が何もせずとも何かをきっかけに時空に歪みが生じ、扉が開くこともあるかもしれません。しかし、私は少なくとも今のところは自分の力を使うつもりはないのです。……申し訳ありません、雪兎の君》


途端に低くなった恭一郎様の声を遮り、雪狐が頭を下げた。


「ううん、そうじゃないの」


昔は、今よりも力が弱かったという雪狐。
つまり、今の彼でも当然可能なのだろう。
それでも、これまで力を使わずにいたのは、雪狐にその意思がないから。
そんな雪狐に頼むなんて酷すぎるし、私一人あちらの世界に行っても仕方がない。
どんな世界なのか、一目見てみたいという気持ちはあるけれど、もう二度と帰ってこられない可能性もあるのに今ここにあるもの全てを捨てることはできない。

そう思うようになるなんて、やはりあの子に再会したいという想いは、とても大きかったのだ。