明日、雪うさぎが泣いたら



ほら、こんなふうに困った笑い方をさせた。


「……お守りか。そう思ったことが一度もないとは言わないが、そんなのはもうずっと昔のことだ。言っただろう? 私がお前をただの妹だと思っていたのは、随分昔のごく僅かな期間だけだと」


軽く、目の端に親指が当てられる。
何だか、頼むから、涙はもう落ちてくるなと言うように。


「好きになってしまえば、それはもうお守りでも面倒でもない。……私が、手を掛けたかっただけのことだ」


それは、いつ頃のことなのだろう。
歳が離れていることもあるし、言うまでもなく私は兄様に懐きすぎていて、本当にものすごく手を焼かせていた。
そんな疑問が浮かんだのがバレたのか、教えないとばかりに更に笑う。


「だが、お前がそんなことを言うとは思わなかった。お前は泣いているのに、酷いと重々承知しているが……私としては、好都合で正直嬉しい」

《……承知しているのなら、せめて姫の前ではその感情を隠していたらどうです? 》


扇で隠されたのは口元だけで、その瞳だけで十分それは伝わってくる。
そこまで、言葉どおりに正直に気持ちを知らされてしまうと、もう笑いしか出てこない。


「あの子に再会するのは諦めます。嫌がっているのを、無理強いはできないもの。でも、記憶は取り戻したいんです。……それも、恭一郎様には不都合があるのでしょうか」


彼にはもう会おうとしない。
どんなに悲しくても、強要できることじゃない。第一、その手段すら不明なのだ。
無理やりどうにか扉を抉じ開けて、再会したとして、あの子に被害でもあろうものなら申し訳なさすぎる。
会いたくもない子に会ったせいで、今のその子の生活を脅かすなんて。