言い返そうとする私を止め、兄様がやれやれと首を振る。
「確かに一彰の口は悪いが。あそこにだけは近づくなよ。こいつの言うように、もうかくれんぼをする歳ではないのだから。足を踏み入れる理由がないだろう?」
先手を打たれてしまった。
あの場所――兄様の言う「あそこ」とは、この邸の敷地内にある小さな裏庭のことだ。
特に景観がいいとか、そういうことではない。
逆にどちらかと言うと、鬱蒼としていて特に若い女性が好んで行くような場所ではないくらい。
でも、あの頃は遊び心が擽られた秘密の場所だった。
どんぐりの木、歩く度にかさかさと鳴る落ち葉。
そんな中、一際映える赤い南天の実。
私たちの他にほとんど人が寄りつかない閉鎖された空間で、あの子と出会った。
ちょっと悪いことをしているかもしれないという、どきどきするかくれんぼ。
(やっぱり、懐かしいなあ)
だから、足を踏み入れる理由はある。
私は確かめたいのだ。
また、あの子に会えるのか。
彼がどこへ消え、私もどこへ迷い込んでいたのか。



