「失礼を」
「ちっとも。ごめんなさい、寒かったでしょう」
頑として中までは入ってくれないが、こうして戸を開けていれば、少しは暖気も流れてくるだろうか。
どこの子だろう。
鼻の頭が赤くなっている。
大雪姫の邸を訊ねて寝込んでしまうなんて、洒落にならない。
「いえ。それより、どうかこちらをお受け取りください」
本当に頑固。
きっぱりと拒まれたことに落胆しながら、差し出されたものに目を遣る。
渡すまで帰らないというよりは、何がなんでも私に渡してさっさと帰るという態度だ。
「申し訳ありません。どうしても、ちゃんと姫のもとへ届いているのか確認したくて。……やはり、最近はご覧になっていないのですね」
「……すぐにお渡しするわけにはいかないわ。それは普通のことでしょう? 」
私が沈んでいたから、あれ以降目に入らないようにしてくれていたのだろう。
それは確かに、特に無礼でもおかしなことでもない。そう、普通のこと。
「それが、お二人でなければ。でも……もっと近い間柄ではありませんか。これでは、あの方がお可哀想です」
「……だとしても、近い関係から敢えて一度遠ざかったのもあの方のご意志だわ。あなたも主が心配だと思うけれど、私も同じ気持ちなのよ」
あんなにも近かった。
それは普通ではないけれど、すぐに会え、触れることもできた。
困り顔をするのはいつも兄様で、それでも明確な拒絶をされることはなく。
それなのに私は、こうしていざ手を伸ばされると、これまでのことは忘れたように背中を向けたのだ。



