明日、雪うさぎが泣いたら



「あの子は後悔しているかもしれないけど、私は逢えてよかったと思ってる。我儘を聞いてくれてありがとう、雪狐」


幼子が泣いて強請れば、その扉を閉じることも難しかっただろう。
泣いた鬼が笑えば、あともう少しそのままにしてやろうという気持ちだって芽生えたのだと思う。
そのおかげで、今だんだんと蘇る思い出があるのだから、雪狐には感謝しかない。


《雪兎の君。ただひとつ今申し上げられることは、悔いているのは現在の彼であり、夢の男子ではないということです。あの頃の彼は、姫と過ごすのをとても楽しんでいましたよ》


雪狐の優しさ。
もしかしたら、彼はかなり早い段階で私と会うのを面倒だと思っていたかもしれない。
そうだとしたら、申し訳ないけれども過ぎたことだ。
今の私にできるのは、これから歩む道を決めること。

一彰の言うように、夢のことなど忘れてこれからの幸せを探せばいいのかもしれないけれど、私はその為にもまず記憶を取り戻したいのだ。
途切れ途切れ、切り取られて脳内に映るものだけではなく、あの子と出逢って仲良くなって。どのようなお別れをしたのか――神隠しに遭い、高熱で意識が朦朧とした状態で発見されるまでの間に何があったのか。

私はずっと、あの子に再会すれば全て明らかになると思っていたし、単純に彼の成長した姿を一目見たいと願っていた。
でも、それを彼が望まないのだとしても、あの頃起きた出来事を思い出すことはできるのではないだろうか。
理由は分からないけれど、現にこうして記憶の断片が蘇っているのだから。