明日、雪うさぎが泣いたら



いずれにしても、怒りはわいてこなかった。
贈り物の存在を思い出し、今まで目にすることがなかったと思い当たった時点で明白だったからだ。兄様らしいな、とも思う。
あの時もきっと、邪悪だと信じるものから守ってくれようとする一心だったのだ。
だから、もっと単純にがっかりした。
なぜだか、髪飾りそのものだけが曖昧で、だからこそどんなものだったか見てみたくて仕方ない。
ただ、馴染みがなかったことだけは確か。
異国情緒漂う装飾だったのかもしれない。


『うん、似合う。鏡見てみたら? 』

『わあ……』


ピカピカの鏡に映った自分の姿。
ここでも、どうしたって髪飾り自体はぼやけてしまってそれ以上記憶を遡れない。でも……。


「鏡……」

「え? ああ、そうね。鏡もやっと頻繁に使ってもらえそうで、喜んでいるわね」


鏡の気持ちまで代弁するほど、長閑は私の支度について思うところがあったらしい。
でも、今はそれどころじゃないのだ。


「違うわよ。そうじゃなくて、鏡が……」


私は、もっと曇りのないはっきりと姿を映す鏡を知っている。
記憶の中の鏡とこれでは、見え方がまるで違うのだ。
そしてなぜか、昔であるはずのあの鏡の方が鮮明に映すことができていただなんて。


『お前は、本当に異国のものに惹かれやすいな』


頭の中で響いた声に首を振る。
こんな技術をもつ国があるなんて、聞いたことがない。
大陸から渡るものも、時折商人が邸に売りにくることもあるようだけれど、あれほどのものはないだろう。

もちろん、私の知識には限りがあるし、そもそもただの夢だと言われてしまえばそれまでだ。
でも、あれが夢などではなく、封じ込められた記憶が戻ってきたのだと信じるならば。
その異国というのは、一体どこにあるのだろうか。