「捕まえた。部屋には入れてはくれないのに、随分無防備だな」


僅かに警戒したのを気取られたのだろう。
くるりと背を向けたところを捕らえられてしまう。


「鬼ごっこもかくれんぼも、する歳じゃないって」


そんなの、もうおしまい。
あの子とも、兄様とも。
そうだったはずなのに、私ひとり大人になれなかったせいで。


「そうだな。子供の遊びは、一度捕まえたら鬼は解放してくれる。私は、そうしてやれないから」


違う。
あの時は、自分から捕まえてもらいに行っていた。
明らかにそこには私の意思があって、寧ろ彼は困り果てては捕まえてくれたのだ。

兄様はどうだっただろう。
あの頃、兄様は、私は――……。


「ずっと兄の面を被っていたことは詫びる。すまなかったな、小雪」


名前を呼ばれることが、なぜかこんなにも懐かしい。
そう感じたのは、すぐ先に起きることを予期していたのかもしれない。


「急いてしまって申し訳ない。あまり時間はないが……もちろん、姫の気持ちがこちらへ向くよう、努力はするつもりだ」