明日、雪うさぎが泣いたら


《どちらへ? 》


すくっと立ち上がると、心配そうにすぐに足下へ寄ってくれる。


「ちょっと、冷たい空気に当たりに。それに、きっと月が綺麗だわ。あ、雪狐はそこにいて? 寒いから」

《……あまり、長居はしないでくださいね。寒いと分かっているのであれば、気をつけるべきは化け狐などではなく貴女の方でしょうに》


止めようか迷った末なのだろう、雪狐はそう道を開けてくれた。
とはいえ、戸を開けばすぐに寒空を望める。
月なんて、顔を上げればもうすぐそこだ。
思わず手を伸ばしてみるくらい近く、けれどもけして掴めない。


(これだけ大きく真ん丸なら、指先に掠ったってよさそうなのにな)


そんな私を諦めさせるように、はらはらと雪が舞い始めた。

もうちょっと、もうちょっとだけ。
だって、まだこんなにも月明かりの方が勝っている。

誰かが通ってくるのを待っているのではない。
どうしても、自分の手で掴みたいの。
古の物語みたいに、求婚や月に召されるのをひたすらじっと待っているなんて嫌だから。

――だったら早く、さっさと掴んでごらん、雪兎。


「………風邪を引くぞ」