明日、雪うさぎが泣いたら


《そんな見せかけの幸せを望む貴女ではない。医師殿はそれを承知のうえ、なおも貴女が愛しいのです。雪兎の君》


大事にしてもらえているのは、昔から今に至るまでずっと伝わっている。
だからこそ、あんな怒り方をするなんて思ってもみなかった。




・・・



『……どういうことだ、これは』


部屋に戻るやいなや、兄様は厳しい顔で待ち構えていた。


『恭一郎様。私がお止めしなかったのです。責任は私にあります』

『長閑!? そんなわけないじゃない。勝手な行動をしたのも、二人を巻き込んだのも私。私以外のどこに責任があるというの? 』


長閑に責任などあるものか。
そんなこと、誰だって分かっている。
でも、長閑がすぐさま前に出たのは、兄様の声色も見下ろす瞳も何もかも――あまりに恐ろしかったからだ。


『責任の所在を問うているのではない』


だが、それすらその一言でぴしゃりと封じ込めてしまう。


『……すまん』


一歩、二歩。
兄様が正面に辿り着く前に、一彰が謝罪を口にした。
彼もまた理解しているのだ。
今この場は、それが一番なのだと。