明日、雪うさぎが泣いたら


「狐さんを邸に連れて帰ったら、怒られるかしら」


分かっていて、誰にともなしに尋ねたのはもう決めているからだ。


《私のことは、そうですね……貴女と揃いにして、雪狐(せっこ)と。ええ、間違いなく医師殿は怒り狂うでしょう》


そんなの何てことないと言うように、胸にすり寄ってくる雪狐を撫でる。


「お前らな。分かってるなら、いちいちあいつを怒らせるなよ。恭が怒ると果てしなくめんどくさいうえに長いぞ」


ごもっとも。
兄様は普段あまり怒らない分、いったん怒らせると尾を引く。
でも、こんなにいい子の雪狐を連れてきただけで……いや、もしかしたら、この子を元凶と憎んでいたりするのだろうか。


《しかし、私も医師殿に腹を立てているのです。我が姫を想うのなら、もう少しやりようがあるというに。だから、私としたことがちょっとだけ意地悪をしてしまいました。あの時の医師殿の顔といったら……ふふ。いやはや、化け物も捨てたものではありませんね》


あの光は、どこかへ連れ去るものではなく、単に兄様への嫌がらせだったのか。
さっきは心から可愛いと思った狐目が、何だか違って見えるのは気のせいだと思いたい。


「……これでも、邪悪じゃないって言えるか? 」

「……いいこだよ、雪狐は」


中身まで小動物ではないのだから、それも仕方のないこと……だと思う。
それに、雪狐はこう続けてくれた。


《勘違いなさいますな。姫を不幸にするだけの男なら、今の今まで見過ごしたりしません。申し上げた通り、器用なようで不器用すぎる男は嫌いではありませぬ》