《もう、あまり時間がない。のんびりとここで眺めている余裕がなかった。何より、私の姫が思い悩む姿を見るのは辛い。だから、せめてお側にいたいのです。雪兎の君》
言うやいなや、あの時と同じ閃光が注ぐ。
慌てて一彰が私を引き寄せたが、私の腕は既に何かを包んでいる。
(……もふもふ? )
もこもこのふわふわ。
いつの間にか何かを抱いていて驚いているのに、落っことすどころかもっと抱き寄せていたくなる。
《ふふ。この姿がお気に召しましたか。これは嬉しいことだ》
くすぐったそうに声が言うと同時に光が弱まり、やがて消えた。
狐だ。
仔犬よりは少し大きいけれど、抱っこするのにちょうどいいくらい。
細い目をもっと細めて嬉しそうな狐は本当に愛らしくて、こんな時だというのに私の目は輝いていたのだろう。
「……おい。尻尾が分かれてるぞ。少しは気味悪がるとか、怖がるとかしろよ。大雪」
確かに一彰が指した通り、尻尾が二又に分かれている。
九尾というわけでもないし、だとしても、もふもふの愛くるしさというのは恐れようがないではないか。
「毎日お供え物しといて、よく言うわ」



