明日、雪うさぎが泣いたら

羞恥と申し訳ない気持ちで一杯になる。
身体の内側から、かあっと熱が込み上げてくるのに、そんな自分を冷ややかな目で見つめてしまう。


《それは、あまりに乱暴な言い草ですよ、陰陽師殿。淡い初恋の思い出と、憧れの兄のどちらか今すぐ選べという方がおかしいのです。姫にとって、もちろんどちらも大切で……だからこそ、どちらとも結ばれることを現実と捉えるのが難しい》

「好きなのに、結ばれることが想像できない……したくないのか。意味不明だな」

《そうでしょうとも。だから、貴方はそうなのです、陰陽師殿。いや、失礼。単に、いざとなると押しが弱いせいでしたか》


今や、見えない相手と普通に掛け合いをしている一彰に、普段なら笑っただろう。
クスッと笑ったふりをしたかったのに、やけに乾いた音だけが唇から漏れただけ。


《それに……医師殿は危うい。私が現れた理由のひとつは医師殿です。姫を想うあまり、何か良くないことを考えているのではと、常日頃危惧していたのですが。近頃、特に嫌な予感がしてなりませぬ》


そんなことないわ。
だって、兄様はいつだって、冷静で穏やかなんだもの。

少し前の私なら、きっと言われた意味も分からずそう反論していた。
ううん、今でもそう思っている。

兄様は優しい。
でも、優しいあまり――。