明日、雪うさぎが泣いたら


「……行くぞ」


その問いかけに対する返事を待たず、一彰が強引に私の腕を引いた。


「お前が言ったんだろ。今は行くつもりがないと。ならば、これ以上ここにいる必要はない。タヌキが狐に抓まれるなど間抜けすぎて笑えん」

「誰がタヌキよ! 」


重い荷物だと言わんばかりに、ずるずると引きずられながら尚もきょろきょろと声の主を探すが、やはり誰もいない。
上から舌打ちが聞こえて見上げると、彼の顔は苦々しそうに歪んでいる。
一彰が私といて不機嫌なのは珍しくも何ともないけれど、少し違和感を覚える。
それによく考えると、単なる悪口にしてはちょっと変だ。
それではまるで、相手が狐――はないかもしれないが、誰だか知っているみたいに聞こえる。


「……知り合い? 」

「阿保か」


殊更冷たい視線を上から浴びせられ、すぐさま言い返そうと口を開いた。


《ふふ。相変わらず、我が姫は可愛らしくていらっしゃる。それにひきかえ、陰陽師殿は年々仏頂面になっていくのが残念でなりませぬ。昔、よく私にお供え物をしてくれた坊やは、それは愛らしかったと言うに。……おや、失礼。それは今もでしたか》