明日、雪うさぎが泣いたら


「……いや。恭がここを邪だと考えるのは、私的な感情ゆえだ。だが、霊的なものはなしにしても、俺もあまりいい気分じゃない。後のことを思えば、余計な。お前が絡むと、あの男はまともじゃなくなる」

「……そうかな? 何かいたとしても、嫌な存在じゃないと思うけど……」


後半は聞き流し、辺りをぐるっと見渡してみる。
昨日のことを考えても、ここに何かがいること自体は確かなのだろう。
それが、私を連れ去ったものと同じものなのかは分からないけれど。
そもそも、もしかしたら、私か自分であの子を追ってしまった可能性だってある。
あの子が帰りがけ、扉が開いたのを見計らって、こっそりついていってしまったとか。


「それはお前が鈍いからだ。……もういいだろ。そうとも、ここは不気味だし、恭はもっと恐ろしい。俺が長居する理由は……

《おや、言ってくれますね、陰陽師殿》


男とも女ともつかない声が、暗い庭に響く。
いや、その表現のどこも間違っている。
確かに聞き取れ、言葉の意味も理解しているのに音として耳から脳へ伝わっているとは思えないのだ。
だから、男なのか女なのか、若いのか老いているのか識別できていない。


「誰……? 」


ふざけた質問だ。
お約束のように尋ねておきながら、確信していた。
これは、昨日のあの光の正体と同じもので――当然ヒトではあり得ないと。