「そんなの、どちらにも失礼だわ」
私をものにしてしまうという表現は、特に兄様に失礼ではないか。
そう思うのに、その親友はすぐさま否定してきた。
「そうか? お前は“兄様”を聖人化しすぎている。恭も自分で言ってたろ。あいつはそれができる。甚だ疑問だが、お前が手に入るならな」
肩を竦める一彰を睨む。
一方で、奴の言い分も一理あると分かっていた。
これまでは、それでよかったのだ。
私にとって、兄様が男でないうちは。
「私からもお願い。このままでは、小雪が一人で行ってしまうわ。もしも一人で現れたら、今度こそまた拐われてしまうかも」
後ろから長閑に声を掛けられ、一転、一彰が狼狽した。
「し、しかし」
「駄目かしら。一彰が一緒なら、まだ安心なのだけれど。だって、凄腕の陰陽師だもの」
いつだったか、私に言ったこととはまるで違う台詞を口にし、目を潤ませる彼女は艶やかだ。
私から見ても、一彰が憐れになるほどに。
「おかしな気配があれば、すぐに連れ戻すぞ。俺個人としてはどうでもいいが、長閑にも恭にも申し訳が立たない」
「うん……! ありがとう、一彰」
持つべきものは友人たちだ。
本当に。



