比較的暖かな午後、約束通り来てくれた兄様が、私の姿を見てぷっと吹き出す。
綿衣を重ねた私は、重さと笑われたことへの不満を表す為に唇を尖らせた。

「だって、温かくしていないと連れて行かないって!」

これ以上、兄様の機嫌を損ねたくない。
それに、兄様も長閑と同じく有言実行だ。
年上であるからというのもあるけれど、昔から兄様がだめと言ったらいくら強請ってもだめだった。
とはいえ、そういう時は大抵私が悪い時で。
多くのことは、いつも譲歩してくれていたと思う。今日だって。

「いや。存外、いい子にしてくれるなと思っただけだ」

いつまで経っても子供扱いだけれど。
私だって、いつまでも兄様に甘えてばかりだ。
いいかげん、兄離れしないと。
私に女性を紹介しないのは、私が大きな原因というものあるだろう。

こっそり見上げてみると、やはり美男だ。
もてるだろうに、ますます申し訳なくなってくる。
今日は部屋からすぐに寄ってくれたのだろうか、この前よりも薫物の香りが少し強いかも――。

(……って、何を考えてるんだろう……!)