「もっと、動きやすくて可愛い服装だってあると思うのに。この国って窮屈だわ」
ついぼやくと、兄様は困ったように笑う。
これもいつものことで、繰り返してしまう自分に罪悪感を覚える。
本音だけれど、一彰の言うように兄様には何の責任もないのだから。
「お前は、本当に異国のものに惹かれやすいな。きっと、どこにでも窮屈な空間はあるさ。ここにも美しいものがあるように」
兄様は正しいのだと思う。
どこの世界だって、いい面も悪い面もあるのだ、きっと。
「ともかく。それでは風邪をひく。温かくしていないと連れていかないぞ。それに」
一瞬迷ったように自分の指先を見て、ぽんと私の頭を叩く。
やがて、わざとらしく感じてしまうほど雑に髪を撫で「元々、ぼさぼさだっただろう」と少し意地悪な声が降ってくる。
「一彰はああ言ったが。この件がなければ、すぐに相手が見つかったと思うのだ。兄としてはおかしな男に見初められるのも嫌だが、妖しに浚われるのを許せるはずがない。そこは期待するなよ」



