せめて、この気持ちだけでも、もっと早く気がついていたら。
そう思えば思うほど、とっくに男性として好きなのだと今頃強く刻み込まれる。


「……まだ、ここにある」


好きなのだ。
そうでなければ、この人は兄様だと言い張っていればよかったのだ。
それができず、名前で呼ぶことを躊躇う時点で、この気持ちが何であるのか明白だった。


「私は、こうなることを恐れていた。お前が病のことを知って、私を受け入れようとするのを。そうだとしても、私はそれすら利用せずにはいられないから」


もう何度目だろう。
遠慮がちに頬を留めた指が、離す頃合いを探すように僅かに往復するのも。
でも、たとえ離れていこうとしたって、私はもう迷わない。


「恭一郎様は、私の気持ちを利用なんてできませんよ。あまり、見くびらないでください」


抵抗しないどころか、自分から上向いたのはその指のせいではない。私自身の意思だ。


「それすら、私の思惑どおりかもしれないぞ。だが、私がどうしてお前を見くびれる? こうも、やられっぱなしだというのに」


諦めたのは、私を操ることだと言って。
どうか、ここにあるのだけは諦めないで。


「困ったな。これに見合う情報を、私はお前に差し出せるかどうか」


代わりに囁かれた言葉は、希望とは異なる。
なのに、それを予感したとたんにすぐさま赤く染まった耳を、何とも愛しげに見られ。
耳の側面から耳朶へと触れていく手は、やはりとても熱かった。


「……いかないで。それだけ」


そう、たったそれだけ。
他にそれだけ欲しいものはなかったのに、悟って初めて思い知るのだ。


「……難しいな」


掴まえておかなくちゃ。
そう思って手を伸ばすと、いつも一歩手前で消えてしまうと。