今まで当たり前にあったものが、これほど突然儚くぼやけてしまうなんて。


(……でも、やっぱり諦められない)


「私の気持ちを、分かってもらえて何よりだ」

「はい。……とても、はっきりと」


だって、まだここにいてくれる。
まだ、こうして触れて、温もりを感じさせてくれる。どんなに朧でも、確かに。

恭一郎様は冗談にしたがるけれど、この状況では無理な話だった。
何より、私は本当にはっきりと知ってしまったのだ。
恐ろしい期限がもうすぐそこに迫っているという頃になって、やっと……こんなにも明確に。


「私は、夢や憧れに拘りすぎていたんですね。もうずっと、あんなにしがみついていたくせに、比べてみれば簡単に手離せたものだったなんて」


狂っていたのは、私の秤の方だ。
いや、量ることすら思いつきもしなかった。
もう何年も、兄様の反対を押し切って夢の正体を暴こうとしていたのに。
不思議な体験をして、雪狐に出会った今になって、あの子との再会も諦めることができた。――それは、これに比べたらずっと……楽なことだったのだ。


「でも、だめです。恭一郎様のことは、私、諦められない」


そうか。
だから、あんなにも心臓の音を聴くのが切なかったのだ。
耳を傾けるのが怖くなるのに、それでも確めずにはいられない。


「……小雪。そう言われては、さすがに私も誤解……」


苦く笑ったのは、私に逃げ道を与える為だ。――知ってる、けど。


「好き、です。本当は好きだったのに……馬鹿ですね。いつだって、私は失いそうになってからしか……それがどれほど大切なのか気づけなくて」


――その優しさは、もう受け取らない。