「あの姫は、自分勝手です。都合のいい時だけ、あの方の愛情を利用して。あれほど主が苦しんでおいでなのに、当の姫君は暢気に過ごしていらっしゃる。もうそろそろ、今度は姫の方が、あの方を救ってくださればいいのに」


――自分勝手。
胸を深く抉られるように痛んだのは、それが事実だからだ。
差し出される愛情を、見返りを求めるという恭一郎様の甘すぎる優しさを、そのまま鵜呑みに受けたりして。


「いい加減にしろ。あいつが暢気に過ごしているように見えるのは、お前だってそれをお前の側からしか見えていないからだ。小雪だって、お前の知らないところで悩みを抱えている。……このうえ、恭が病に侵されていると知ったら、どんなに……」


(……え……? )


……今、何て?
はっきりと聞こえたはずの言葉を、脳が処理するのを拒んでいる。


「……どういう……こと……? 」


だから尋ねようと、二人に近づこうとした足は何も感じなかった。
ふわふわした足取りのまま、それでも近寄り――ただ、知りたくない答えを求めようと、一彰と童の間を目が彷徨い続ける。


「小雪……。……っ、お前……!? 」


手がかりを渡されてなお、自分で握ることができない私を、この子はますます嫌悪するだろうか。
でも、とてもではないけれど、今聞こえてきた言葉の意味を理解する勇気がない。


「……それで? お前は一体、小雪にどうしてほしいんだ。弱った男と寝てくれとでも?」

「……一彰」


とても、子供に向ける表現ではない。
意思とは関係なく言わされたとはいえ、自ら私に伝えてしまったことに、一彰は心配になるほど唇を噛んでいる。