明日、雪うさぎが泣いたら





高野家の敷地は、なかなかに広い。
部屋から眺めるだけでは、あの裏庭は欠片すら見えないけれど。
一彰が帰り、兄様と二人ぼんやりとした視線をその方向へ送ると、懐かしい思い出が蘇ってくる。

父も腕のいい医師だった。
兄様もよく父に懐いていたっけ。
兄様が言ったように、もちろん父の功績もあるだろう。
でも、兄様だって昔から神童すら呼ばれ、将来を期待されていたし、それに十分すぎるほど応えているのだと思う。
そんな兄様が、どうして胡散臭い一彰と親友になったのか未だに謎だが。

義母兄妹である私たちとは、一彰も長閑も本当に古い付き合いだ。
兄様から一彰を紹介された時は、あまりの無礼さと無表情に驚いたものである。
実は、一彰との縁談も何度か持ち上がったようなのだけれど。
お互い、そこだけは意見が一致している。

天地がひっくり返ってもあり得ない。


「兄様。やっぱり、妖怪とか神隠しだなんてただの迷信です。あの子は、本当にそんなんじゃ……」

「分かっている。お前がかくれんぼをしたいのは、私ではない。……想い続けていたんだな、その男を」